職を免ぜられて茲に十日となれり。遂に五月は来りぬ。この村の一年のうち、最も楽しき五月は来りぬ。
梅の花盛りなり、山に蕪荑の花も捨てがたき趣きなり。盛岡は新古公苑の桜咲き揃へりと新聞は報じぬ。晴天下の春、啄木、今浪々の逸民、ひとり痩頬を撫して感多少焉。
清民、米長二氏と会し、又、夜岩本氏を訪ひ、北遊旅費の件略々決定す。
※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人