君、君に御心配をかけた事は誠に済まぬ、君が斯く僕の無理までを通さしてくれるのは何とも云ひ様がなく有難い、前後二度に五十金確かに落手した、実際僕はよく大胆にこんな迷惑を友人にかけた事と自分乍ら思ふ、君の深い/\友情は謝するに辞もない、
サテ、万事はお蔭でうまく取運んだ、横山といふのは、一寸ホトボリの
君、実際君のお蔭で僕石川啄木は顔を立てた、お蔭で立てた顔は決してよごさぬ、僕は必らず此釧路で成功する、
君、僕の考通りに事件が進行して愉快此上なしだ、
僕は今、主筆が上在で総編輯をやつてる上にこんな事で一日一杯頭をやすめる時間がない、従つて
僕は彼の実務家に深い思想のない理由を初めて解つた、と同時に、年若くして心のみ老ぬる人の上幸を痛切に感じた、君、僕は年が若い、若いから若々しく活動してみる、
今度の金は自分の事につかつたのではないから案外早く返済の路がつくと思ふ
先は上取敢御礼まで、君の楽しき結婚問題の其後の消息きゝたい、早からんことを祈る、
二十八日夜 啄木
郁雨大兄 侍史
二白、吉野兄の件、アノ儘交渉は面倒と思つたから、少し小刀細工を初めた、二三日前の新聞の驚くべく敗徳事件! といふ記事を御覧になつたら解るだらう、今日日高の大島さんから手紙が来たよ、代用教員をしてる由、何と云ふてよいやら
※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人