雪の北海道を横断して二十一日夜着釧。北天遥かに阿寒山の白装束を望む風光は、殺風景なる小樽にまさる事数等に候。今度の社は新築の煉瓦造にて心地よく、鳥なき里の
雪は至つて少なけれども、釧路の風は意地が悪い。零度以下の寒さを以て耳を落し鼻を削らずんば止まざらむとす。二三日前社長が時計を買つてくれたので、珍らしくて/\毎日々々時計をいぢくつて居候。
留守宅では花園町畑十四、星川丑七方へうつつたさうだから、何卒行つて『其面影』をとつてくれ給へ。
一月三十日夜 石川啄木
藤田武治様
高田紅果様
※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人