二一一 九月二十五日札幌より 宮崎大四郎宛


 

君を迎へて豚汁つつかむとせしこの札幌を二三日中に見捨てねばならぬ事出来申候、何だか遺憾千万に候へど、一種の遊牧の民たる小生には致方なく候、小生は、この度山県勇三郎氏によつて新たに起さるべき小樽日々新聞社に入る事に昨夜確定仕候、校正子一躍して二十円の三面記者になりたる訳に候、何卒御笑ひ被下度候、明後日あたり小樽にゆく。初号発行は来月十五日に候へど、一日に編輯会議開く筈に候、新聞の創業時代は大に愉快なるべしと存候、演習の際小樽迄は御出でにならぬのに候ふや、若し御出でになるとすれば彼地にてお目にかゝりうべく候、今后当分家を見つける迄御手紙は左記へ。

 小樽区稲穂町畑十五、鉄道官舎山本千三郎方。

  二十五日早朝

                     札幌 啄木

 宮崎大四郎様

 


※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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