十年間、羊蹄山の麓の小さな町の図書館で働いていました。かつてこの町の小学校で針山和美氏が教鞭を執られていたことがあり、その在職十年の間に編まれた同人雑誌『京極文芸』が残されています。その復刻製本や読書会を行う楽しい日々でした。
針山氏への関心は、自然、もうひとつの深い森『人間像』へ足を向かわせます。森の中をうらうらと歩いていて、気づいたことがひとつ。それは、今まで私は作家としての針山氏ばかりを見ていたということです。針山氏が育てた樹(作品)のひとつひとつに見とれていた。でも森を見渡せば、見たこともない樹が生い茂っている。
『人間像』編集者としての針山氏にはじめて気づいた瞬間です。これら森の草木すべてを読まないと針山和美という人を理解したことにはならないのではないか。すべての作品を読むにはどうしたらいいのか。読み終えないうちにお迎えが来てしまうのはとても悔しい。何のために図書館の仕事をやってきたのか。そういう様々な想いがデジタル・ライブラリーというアイデアを生み出しました。
「人間像ライブラリー」は同人雑誌『人間像』の完全復刻にとどまりません。今まで、私が、海岸で、山麓で、巡ってきた図書館のひとつひとつで出会った人間像たちが、今ここに一堂に会する私の最後の図書館です。
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